Medical Treatment
内科治療

治療が必要なわけ

肥満症では、肥満が原因で複数の健康障害が発症し、これらを放置しておくとドミノ倒しのように一気に進んで、最後は生命を奪う様々な病態をも引き起こします(図1)。肥満症の治療の基本は、減量です。ただし、目的はBMIを25以下にすることではなく、内臓脂肪を減らして肥満に合併する疾患を予防・改善することです。肥満症に含まれる11種の合併症は体重減少により改善できるので、肥満症では現体重の3%以上、高度肥満症では5〜10%を減量目標として治療を行います。

図1 メタボリックドミノ
図1 メタボリックドミノ

内科治療

肥満症の治療は大きく分けて以下の5つです。

  • 食事療法
  • 運動療法
  • 認知行動療法
  • 薬物療法
  • 外科治療

①~③は生活習慣の改善ともいえます。これらは薬物治療や外科治療を行う際にも重要です。体重の増減は摂取エネルギーと消費エネルギーの差で決まるので、摂取エネルギーを減らせば理論的には体重がどんどん減るように思えます。しかし、ボクサーは試合前1週間だけ食事や水を減らして減量を成功させますが、長期間にわたって減量を成功させるには食事療法だけでは不可能です。なぜなら体重が減ると基礎代謝という消費エネルギーも減ってしまうので、だんだん体重が減らなくなるからです。そこで重要なのが運動療法により筋肉をつけて基礎代謝を落とさないようにすることです。運動療法は瞬間的な消費エネルギーを増やすだけではないということです。

一人ひとりの背景や環境に合った食事療法と運動療法を続けることが何よりも大切で、かつ難しいことです。患者の主体性を確保し、治療動機水準を高め、減量とその長期維持を可能にするためには認知行動療法が必須な治療法となります。たとえば、グラフ化体重日記や食行動質問表を用いて問題点の抽出を行い、生活習慣や食行動の是正に役立てます。

薬物療法は食事療法や運動療法などを行ってもそれだけでは効果が不十分な人に対して医師の判断により検討されます。単に「やせたい」というだけでは決して薬物治療の対象にはなりません。日本ではマジンドール(商品名サノレックス)のみがBMI35kg/m2以上の高度肥満症に対して保険適応となっています。GLP1受容体作動薬などの糖尿病治療薬には体重を減らす作用を有するものがありますが、日本糖尿病学会が見解を出しているように、糖尿病ではない患者へのダイエット目的の適応外使用は安全性と有効性が確認できていません。

高度肥満症では、胃の一部を切除する外科治療によって長期的に減量を維持でき、種々の合併症の改善効果が高いことが証明されています。

もうひとつの内科治療

ここまでは減量のための治療でしたが、肥満症の内科治療としてもうひとつ重要なのが、既に起こっている健康障害に対する治療です。もちろん健康障害を改善させるために体重を落とすわけですが、実際にはそれだけで上手くいかないこともあり、その場合には健康障害に対する直接的な治療を同時進行で行う必要があります。具体的には、糖尿病、高血圧、脂質異常症などの各健康障害に対して薬物療法を行います。糖尿病治療薬のなかには体重を落としやすくするものもあり、そういった薬物を優先的に使用することもあります。

患者さんから「薬を飲み始めると一生止められないのではないですか?」とよく質問されますが、減量治療がうまくいけば、血糖値、血圧、コレステロール値なども改善していくことが期待できますので、将来的には薬物を減らしたり完全に中止できることもあります。減量治療次第です。

当センターの取り組み

当センターでは、管理栄養士の指導による食事療法、理学療法士の指導による運動療法(入院のみ)、臨床心理士の指導による認知行動療法(外来のみ)、薬物療法を行っています。
また2週間の内科入院による減量治療を随時行っています(下図)。

肥満減量入院クリニカルパス
肥満減量入院クリニカルパス 肥満減量入院クリニカルパス
安全に配慮した段階的なカロリー制限エルゴメーターやエアロバイクを用いた運動療法による減量

入院中には治療だけでなく、以下の目的で各種検査も行います。

  • 肥満をもたらす重大な病気が隠れていないか
  • 肥満によって起こる11の合併症が現時点でどの程度あるのか
検査方法

採血・採尿、腹部CT、基礎代謝測定、 全身の筋肉量・脂肪量測定、動脈硬化検査など

2週間の入院でほぼ全員が4~8%のダイエットに成功しています!! 2週間の入院でほぼ全員が4~8%のダイエットに成功しています!!

肥満症の外科手術になる可能性がある場合(希望される場合)、まずは内科に減量入院していただき、最終的な手術の適応を慎重に検討いたします。

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