慢性膵炎とは
膵臓では炭水化物を分解するアミラーゼ、たんぱく質を分解するトリプシン、脂質を分解するリパーゼなどの消化酵素が作られます。これらの消化酵素は自分の膵臓自身を消化しないように、通常は活性をもたない不活性型として膵臓内で作られます。大量飲酒などをきっかけに、膵臓の中で消化作用を持つ活性型になると、自分の膵臓を消化してしまいます(膵の自己融解)。消化酵素が急激に活性化されて、膵臓を溶かしてしまうのが急性膵炎、徐々に活性化されてゆっくりと膵臓に炎症を起こすのが慢性膵炎です。炎症を繰り返すことによって正常の膵組織が間質といわれる線維組織に置き換わり、膵臓は全体に硬くなることによって膵機能は低下します。
慢性膵炎の原因
飲酒に関連するアルコール性慢性膵炎、原因がよくわからない特発性慢性膵炎、胆石・膵管奇形・高脂血症などが関与している慢性膵炎などがあります。男性ではアルコール性慢性膵炎が最も多く、女性では特発性慢性膵炎が最も多いです。非常にまれですが、遺伝性膵炎もあります。
慢性膵炎の症状
典型的な症状は上腹部痛や腰背部痛です。膵臓の硬化と膵石が生成されることにより、膵液の流れ道である膵管の圧が上昇して腹痛を生じます。嘔気や腹部膨満感がみられることもあります。慢性膵炎が進行し、膵機能が低下してくると、体重減少や糖尿病が出現します。
慢性膵炎では、膵石と膵菅拡張を認める
慢性膵炎の治療
当院では、慢性膵炎の治療方針は、内科とカンファレンスを行い、それぞれの患者さんの病態に応じて適切な治療を選択しています。内科的治療は、禁酒・禁煙・食事療法をベースに、膵石に対しては、体外衝撃波結石破砕療法(ESWL)を併用した内視鏡的砕石術や、膵管ステントを留置します。治療の期間が長くなることが予想されたり、症状が再燃する場合には患者さんの希望に応じて、積極的に早期から手術治療を行うようにしています。胆管狭窄や仮性嚢胞などの合併症を有する場合や、膵癌との区別がつかない場合などにも手術治療を行います。慢性膵炎になると膵癌を発症する確率が正常膵に比べて10~20倍に上昇するといわれており、適切な診断と治療が必要です。
慢性膵炎の手術
当科では、1984年頃から慢性膵炎に対する外科治療を積極的に行っており、長い歴史があります。現在ではFrey手術(膵頭部くり抜き+膵管空腸側々吻合)を基本術式とし、病態に合わせてPuestow 手術(膵尾部切除+膵管空腸側々吻合)や亜全胃温存膵頭十二指腸切除術などの最適な術式を選択しています。膵管内圧を減少させることを大原則に術式を決定しており、必要に応じて神経叢切離を付加しています。これにより膵機能が温存され、体重の増加などといった全身状態の改善も認めることが多いです。
また、当科の慢性膵炎の手術成績として、術後の疼痛緩解率は93%を超えており、十分に患者さんのニーズに応えうるものと考えています。慢性膵炎でお悩みの方は、是非ご相談ください。
慢性膵炎 外科手術後の疼痛緩解率
（観察期間が平均2年以上の報告）
Frey手術：①膵菅の開放と膵頭部のくり抜き
Frey手術：②Y脚作成と膵空腸側々吻合
Frey手術：③再建完成
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