膵臓とは
膵臓は上腹部の背中側(胃の裏側辺り)に位置している長さ15cm程度の左右に細長い形をした臓器です。体の右側から左側に向かって、膵頭部、膵体部、膵尾部と呼ばれています。
膵臓の中には膵管という細い管が網の目のように走っており、これらが集まって主膵管という太い管となり十二指腸に繋がっています。また、膵頭部には肝臓で作られた胆汁を十二指腸に流している総胆管が通っています。
膵臓の役割は主に二つあり、一つは消化液である膵液を作って膵管を通じて十二指腸に流し食べ物の消化を助ける働き(外分泌機能)、もう一つは血糖値をコントロールするインスリンをはじめとした様々なホルモンを分泌する働き(内分泌機能)です。
Fig.1 膵臓の解剖
膵がん、膵腫瘍
膵臓には、膵がんをはじめとして嚢胞性腫瘍や内分泌腫瘍といった様々な種類の腫瘍(できもの)が出来ることがあります。私達、消化器外科では手術療法を中心にこれらの治療を行っています。
膵がんは膵臓より発生する悪性腫瘍です。わが国では年間3万人以上の方が亡くなっており、がんによる死亡原因の第4位となっています。高齢の男性に多く、治すことが難しいがんとされています。
がんが小さいうちは自覚症状が出にくく、進行してくると上腹部や腰、背中の痛み、食欲不振、体重減少、全身の倦怠感などを起こします。また、ホルモンを作る働きに影響して糖尿病を起こすことや、膵頭部がんでは胆汁の通り道である胆管の通りが悪くなることで黄疸を起こすことがあります。膵がんは特徴的な症状に乏しく、進行してこないと症状が出にくいことから、まだ小さいうちに診断して治療をはじめることが難しく、そのことが治療の成績が悪い原因の一つとなっています。
膵がんが進行すると、大きくなったがんが膵臓の周りの臓器や大きな血管などへと広がっていきます(周囲への浸潤)。また、がん細胞が血液やリンパ液の流れに乗って、遠くの臓器やリンパ節へと移動し、そこで増殖します(他臓器への転移、リンパ節転移)。膵臓の外に顔を出した膵がんの細胞がお腹の中に種をまくように散らばってあちこちで増殖することがあります(腹膜播種)。
膵がんの治療方針を決め、治療の効果を予測するためには、病気の進行具合を正確に判定することが大切です。内科の先生とも連携して、手術前に画像検査(CTやMRIなど)や内視鏡検査(胃カメラ検査)などを行い総合的にがんの進行度を判断します。
膵がん、膵腫瘍の治療
①手術治療
膵がんを治すには、手術でがんを全て取り除くことが最善の方法です。がんのある位置に応じて切除する範囲、手術の方法を決定します。他の臓器への転移や大きな血管への広範囲の浸潤があってがんを全て取り除く手術が出来ないことが分かっている場合には手術以外の治療方法が選択されます。
膵頭十二指腸切除術
がんが膵頭部にある場合には、膵頭十二指腸切除術という手術を行います。がんのある膵頭部と十二指腸、胃、胆嚢、下部胆管、周辺のリンパ節を切除します。切除した後で胃、膵臓、胆管を小腸と縫い合わせて食べ物、膵液、胆汁の通り道を作ります。
以前は胃の約半分を切除する手術を行っていましたが、胃の大半を温存した方が術後に食事が摂りやすく、がんの治療成績にも影響しないということが分かってきたため、当科では胃の大半を温存する亜全胃温存膵頭十二指腸切除術を行っています。膵臓の背中側には門脈という腸管などのお腹の中の臓器からの血液を肝臓に流している血管が通っており、進行したがんではこの門脈に浸潤している場合があります。そのような場合でも、程度にもよりますが浸潤した門脈を一緒に切除して繋ぎ合わせるという手術も行っています。
Fig.2 膵頭十二指腸切除術の切除範囲
Fig.3 膵頭十二指腸切除術の再建後
膵体尾部切除術
がんが膵体部、膵尾部にある場合には、膵体尾部切除術という手術を行います。膵体部、膵尾部と脾臓、周囲のリンパ節を切除します。
当科では良性腫瘍の場合には、脾臓を温存する手術や腹腔鏡を用いた手術を積極的に行っています。膵臓は左右に細長い臓器のため、開腹手術ではお腹を大きく切って行う必要があります。腹腔鏡を用いると小さな傷で手術が出来るため体への負担も少なく、術後の回復も早くなります。
また、腹腔動脈という胃や肝臓などに血液を送っている大きな血管に浸潤しているような場合でも、手術適応を十分に評価した上で、手術でがんを取り切れると判断出来る場合には腹腔動脈合併膵体尾部切除術を行っています。
腹腔動脈合併膵体尾部切除
膵全摘術
がんが膵臓全体に広がっている場合には、膵臓を全て切除する膵全摘術を行います。膵頭十二指腸切除術と同様に十二指腸、胃の一部、胆嚢、下部胆管、周囲のリンパ節も切除します。膵臓を全て切除するとインスリンなどのホルモンや消化を助ける酵素を作ることが出来なくなるため、インスリン注射や膵酵素製剤の内服を続けることが必要になります。
手術はがんを全て取り除くように行いますが、がん細胞は目には見えない大きさで血液やリンパ液の中を流れていくため、実際には手術前や手術中には判別出来ないような小さいがんが残っている場合があります。時間とともにそれらが大きくなると再発を起こします。がんが小さいうちに診断をして手術が出来るほど、再発する危険は低くなり、治る可能性が高くなります。
次ページのグラフは当院で膵がんの手術を受けて頂いた患者さんの治療成績と全国平均との比較です。3年生存率、生存期間中央値で全国平均を上回っています。
Fig.4 膵癌切除術後患者さんの医療成績比較
(当科と全国平均(膵癌登録報告2007より))
バイパス術
膵がんが進行して腸管や胆管に浸潤すると、食べ物や胆汁の流れが悪くなり、食事が摂れなくなることや黄疸が出てくることがあります。また、腸管の内面にがんが顔を出すと食べ物が通る時に擦れて出血をしやすくなることがあります。これらの症状を抑えるために、がんそのものの摘出が難しい場合にもバイパス術という手術を行う場合があります。がんのある部分を迂回するようにして胃と小腸、小腸と小腸、胆管と小腸を繋いで通り道を作ります。
②化学療法(抗がん剤治療)
術後の再発を予防する目的や、手術での切除が出来ない場合、術後に再発を来した場合などに化学療法(抗がん剤治療)を行います。抗がん剤には術後の再発を予防する効果、がんを小さくして進行を遅らせて症状が出ることを抑える効果があります。手術が出来ないほど進行したがんでも化学療法がよく効くことで手術が出来るようになる場合があります。 化学療法には副作用があるため患者さんの全身状態に合わせて投与スケジュールや使用する薬剤を選択します。
③放射線療法
他の臓器への転移がないものの膵がんがまわりの大きな血管を巻き込んでいて手術が出来ないような場合には放射線療法を行うことがあります。多くの場合、効果を高めるために化学療法と一緒に行います。