鼠径ヘルニア(脱腸)とは?
写真1 右鼠径ヘルニアをお腹の中から観察した写真
まずは鼠径ヘルニアとはどのような病気なのかをご説明します。鼠径ヘルニアは一般的に脱腸とも呼ばれておりますが、その名の通り鼠径部(足の付け根)から腸が脱出している病態を指します。「ヘルニア」とは「飛び出る」ことを意味する言葉であり、成人鼠径ヘルニアは小腸などの臓器が加齢とともに弱くなった下腹部の筋肉の間から出てくる病気です。
症状としては、立った時やおなかに力が入ったときに臓器が脱出し、鼠径部がふくらむことによる違和感や痛みが主な症状です。臓器が嵌まり込み、もとに戻せない状態を嵌頓(かんとん)と呼びますが、この状態が続くと腸閉塞を引き起こし、緊急手術となるため、早期の治療をおすすめします。鼠径ヘルニアに対しては、物理的に弱くなった部分を修復しなくてはならないため、薬では治らず、治療法は手術以外ありません。
鼠径ヘルニアの治療法(手術)
以前は弱くなった部分を直接縫い合わせるような手術が行われておりましたが、術後の疼痛が強く、再発を多く認めたため、現在では弱くなった部分にメッシュと呼ばれる網状のシートを用いてヘルニアを修復する方法(写真2,3)が主流です。手術方法は前方切開法(鼠径部の皮膚を切開する方法)と腹腔鏡を使用し小さな傷で行う腹腔鏡下手術の2種類があります。
当院では切開法、腹腔鏡手術のいずれでも手術は可能ですが、腹腔鏡下手術を標準術式としております。
腹腔鏡下手術はおなかの中にカメラ(腹腔鏡)を挿入し、中から鼠径部を直接観察するのでヘルニアの原因となる筋肉の凹み(臓器が脱出する穴)が一目瞭然であり、とても診断能に優れた方法です(写真1)。対側の診断も容易で、症状がないために術前に診断できなかった場合も術中に確実に診断し、傷を増やすことなく、対側も同時に修復可能な点も大きなメリットとなります。また、腹腔鏡下手術は傷が小さいため術後の回復が早く、早期の社会復帰も可能です。お仕事でお忙しい方にも満足して頂いております。術後疼痛が少ないため、手術当日から歩行も可能で、手術1週間後にはお仕事にも復帰でき、ジョギングなどの運動も十分可能です。
外科外来では、患者さんご本人に治療法をわかりやすく説明しご納得頂いた上で、患者さんが希望される治療方法を選択しております。鼠径部に違和感や痛みがある方、もしくは症状はないものの指で押さえると引っ込むようなふくらみが鼠径部にある方など、お困りな方はいつでもお気軽にご相談ください。
写真2 メッシュ展開時
写真3 修復後